2017/02/28

不毛を感じた点と線

同時に動く複数のオブジェクトの位置と移動特性を追いかけて視界全体の総合的な判断を素早く行う内的処理があまり得意ではないようなので、アクションゲームやシューティングゲームやサウンドゲームやレースゲームが苦手。また、ある任意の二次元グラフを前提として同じダンジョンの攻略や戦闘をひたすら続けること(X軸の上昇。プレイ時間との関連性が強いことが多い)によって主人公たちのパラメータや武具の成長(Y軸)が定められた範囲内の線を描き、ボス撃破可能範囲に値Yが到着した際に途端に攻略可能になるといったたぐいのRPGも、あまり持続するのが得意ではない。

じゃあどんなゲームが好きなんだって話になると、身も蓋もなく「ゲーム全体が好きじゃないのかもしれない…」みたいな結論におちいりそうになる。でもそれは、困る。だって、あーりんという人物に付随した属性のひとつが「ゲーム好き」ではないか。じゃあわたしにとってビデオゲームは単なる適当な暇つぶし、パスタイムに過ぎないのか。それはいやだ。理屈はあまりない。パスタイム扱いがいやだった。

上記の「苦手」を削ぎ落としていった結果が、あーりんのつくるゲームなのかもしれないし、この仮説はまるごと間違っているかもしれない。

2017/02/26

ひとのふりみてわがふりなおせ。ひとのディペンデンスを笑うな。そんな自省を心がけながら、ねるよ

2017/02/24

「この作品は、自分の中で大切にしておこう」の方がじつは多い、けれども

自分が見たり聞いたりした作品に対する、インターネット上の感想が、自分が抱いた骨子とはまるで違う観点のものばかりだったりすることがある。ままある。その時、「すごいな、多くの人はこう見ているのか」と感心し、そして、「本当にひとりになってしまったな」と、思う。統計学の勝利である。多くの観測を経て、概ね客観的な確定性を得るのだ。自分がひとりであることに。

ひとりであることそのものに問題はない。むしろ、メリットも多い。

その一方で、今後,自分が何かを成し遂げようとする時に、そしてわたしではない他の誰かの感性との一種の必然的な共同作業によって、それを成し遂げなければならない時に、「自分が一人であった事実を起因させる『何か』を、こちら側が発見して取り除く手立てが非常に見つけにくいと思われる」状況が、ただひたすらに、恐ろしいのだ。その気配を感じ取った瞬間に、迷いなく自分はなるべく暗い部屋の隅に逃げ出して、ひざまずき、孤独の影に全身を震わせるのだと思う。ひとりであるたった今ではなく、ひとりでありつづけることを達成せしめた諸要素たちにたいして、怖気づき、足をよろめかせて、慄き、瞳を地の底に向けては、呻き声を上げるのだ。あるいはそれは、祈りの声なのかもしれない。

2017/02/23

いちばんかわいそうなのがタクシーの車体

このとむのためらいのなさがいい

「コラテラル」(2004,マイケル・マン監督)みた。タクシーに乗るえいがだよ。おもしろかったーよー。

・ラストバトルが熱ければ、なにもかも良しなのだ。「あいつならこうするだろうな」が、お互いに感じていることが明確な、すなわちコミュニケートしている戦いというのは、激烈な殺し合いであると同時に、他にないほどの魂の交流だと思う。あーりんは、そんな殺し合いのシーンが大好きだ。そして不思議なほど静かに戦いが幕を下ろすのならば、もっと好きなのだ。

・車に乗り続けるというか、列車とか他の乗り物でもいいんだけど、ひたすら移動を続ける、一箇所にとどまらないたぐいの映画は、なんとなく良作が多いような気がする。ロケが大変だから作るのも気合が入るのかもしれない(てきとうな)。

・こんなにもプロットポイント1とプロットポイント2が明確に設定されているハリウッド脚本工学的な脚本もあんまりみないなあ、とかスタッフロールみながら思っちゃった。でも面白いからまったく問題なしだよ。

・夜景が綺麗。

2017/02/22

にっき

・二段組の小説の一ページは普通の一段組の2倍を通り越して3倍くらい読む時間がかかるような気がする。あまりにも遅いので、素早さにデバフ(まいなすぱらめーたーじょうたいをしめすげーむようごだよ)を掛けられた気持ちになる。デバフって言いたかった。

・さいきん、映画でもゲームでもなんでも思うのだけど、「中盤」の作りを気にしてしまう。作り手の方は一体どういう気持ちで作ってるんだろうな、と思ったりする。序盤でも終盤でもなく、中盤だ。序盤は、何かしらまず打ち出したいものがあったりキャラクターを出したり説明したりもするし、終盤=ラスト辺りも、やはりまた作り手の力が篭もる場所だと思う。でも、中盤は、そのどちらでもない。中盤は、ほぼ必定として、黙々と持続するところだ。コンセプトやルールを発射し終えて、デザインも一通りお披露目して、それらを上手く転がして、転がし続けるところなのだ。そう、続ける。輝かしい幕開けはとうに過ぎ去って、来るべき幕引きは地平線より遠く、そんな道程を、汗をかきながら、ひたすら走り続けなければならないところだ。そして中盤は大抵のところ、長いのだ。冒頭や終局よりも。だから作る人は、その作業量にダレるかもしれないし、「これ本当に面白いのかな…」などと自省したり、そこでかつて見えなかった方向性(多分結果的にだめな道)に救いを見出したりするのかもしれない。だからこそ、実は中盤というフィールドこそが、作り手の本領発揮、というか、「地の力」が出やすいところなのかな、などと考えたりする。そんなわけで、中盤をきちんと駆け抜けられる物語は、力強いと思う。けつろん。創作物を見るときは、その中盤に注目だ。でもあーりんのはやめてほしい。

2017/02/20

にっき

ぬるい難易度で楽しませてくれた後に、ちょうどゲーム全体の半分が過ぎた辺りで敵のパラメータが爆発的に上昇してレベルアップなどを求めるたぐいのゲームよりも、序盤からぶっ殺しにかかるようなゲームのほうが、デザインとしては明らかに、好き、とさいかくにんした。ゲームは孤高であるべきだとおもう。時代錯誤(アナクロニスティック)だよなあ、とわれながらおもう。

2017/02/16

昨日の続きの、まあまあ整然とした日記的文章を書いていたんだけど、論点がぶれてきて、想像以上に長くなりそうで面倒になってやめた

代わりに、同じくらいの長さの文章を書くよ。多分こっちのほうが相対的にも総体的にも有益だと思う。



ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

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あああああああああああああああああああ。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。



↑ ひとつだけ「お」があるよ、さがしてみよう。

わけのわからないもの・ビギンズ

身の回りが、わけのわからないものばかりで、ふと恐ろしくなることがある。

自室にいる。何気なしに、身の回りにあるものをひとつひとつ観察してみると、ほぼすべてが人工物であることに気づく。大量生産技術に依拠していると思しき、工業的人工物。色々なものがある。信じがたいほどに精密なものや、どうやって作ったのかまるでわからないつやつやしたものや、見事な円形や黄金比にかたち作られたものや、色がはっきりしているものや、不純物のまったくないものなどがある。このテキストが表示されるディスプレイも、もちろんその類だ。そして、身の回りのそれらはすべて、わけがわからないものだ。どういった原料から、どうやって作られて、どう供給されたものなのか、いまひとつ不明瞭で、イメージが細部まで行き届かない。あくまでもあーりんにとってはなんだけど、それはなんだか、不気味なことに思える。

さいわいなことに、現代は身の回りに魔法の箱とか板(悪い意味でオールドスタイルな言い回しになってる時期)があるから、「なんとか 製造法」とかで検索すれば、ある程度は理解できるかな…と思う。思いきや、表示されたテキストたちはその最初の二歩くらいで、重化学工業史や薬学史や原料の輸出入の業態や繊維工学や電磁気学や成形技術や成形技術のための成形技術などの、高度な専門科学のレベルに、平然と踏み込んでいく。専門用語が2,3個出てきても対処する気くらいはあるけれども、ほぼすべてが専門用語でもって殴りかかられると、こちらとしてもどうしようもない。要は調べてもわけわかんないんだよにゃ。どういうものを使って、どういう技術で、どうやって作られているのか、わからない。調べれば調べるほど新しい疑問に分岐するような感じ。これだけ諸産業技術の発展と細分化が凄まじいと、ある専門分野についてはわかる人でも、別の専門分野での「わからない」がきっとある、と思う。つまり、たぶん、この世の誰にも、すべてはわからない。

別に、森とか樹海の中でごろごろしてね、穴の中で暮らしてね、みたいな、ちっとも笑えないようなお話に着地したいのではない。ただ、これだけ身の回りがわけのわからないものでさっぱり構成されていて、その中において人間という、ほとんど天然物と呼べるものが確固たる命と意志を持ちながら生きている、というのは、なんだかすごいことだなあ、と思った、たったのそれだけだ。そしてあるいは、人々はまた、そのわけのわからないものたちのために日夜懸命に生きていたりも、する。

2017/02/14

っっっっっq



なにがクリエイターだ、ふざけるのも大概にしろ、その鼻面にニーリフト喰らわせてやろうか、という思考が脳裏をよぎった。

だから、わたしは顔の前に腕で十字を作り、力を込めて身構えた。来たる膝蹴りのインパクトに備えて、我が鼻をしっかりと守らなければならなかったからだ。

一日マップ一枚

10年くらい前に作ったRPGで、たしか、やっとついた街の横の方に見える意味ありげな階段を下って、道を延々と進んでいくと、特にアイテムも敵もなにもなくて、行き止まりにつく。一枚の看板だけがポツンと立っている。調べると、「ここは行き止まりだよ。行き止まりはどんな場所にでもあるんだよ。ゲームの中にだって。どうしようもないんだよ」みたいなメッセージが表示される。もっとくどくど言ってたかな。あれは今でも好きだな。もう悪いところの塊の、本当に手の施しようもない悲しいゲームだったけど、あの演出はよかったとおもう。おもう。プレイヤー側がどう思ったのかは知らない。永遠にわからない。ふと思い出したから書いた。

・予定していなかったゲームをやっていたから、予定していたゲームができなかったよ

・努力量?と平均成果?があまり比例しない(一次関数的な線を描かない)のは、一瞬、この世で最も理不尽で悲しいことのようにも思えちゃうけれども、ひたすら手を抜いて作ったごはんの方が手軽かつ火の通りもちょうどよくて美味しいみたいなこと、けっこうあるよね?(きくな)。そういう事実は否定できないし、否定したいわけでもないんだ。わかる。その一方で、ひとが悩んだり、考えたりすることには必ず何らかの意味はあると思いたいからちょっとcomplicatedだよ。

・例えば、無菌の病室で、不治の病を前にして、ベッドから冬の夜景を見つめている少年がいる。彼の大脳皮質を駆け巡る、永遠に誰にも吐露されることのない懊悩たちや思考たちが、たとえ望ましい答えにたどり着かなくても、行き場がなくなっても、ようやく見つけられたのがもっと悲しい真実だとしても。やっぱり思いたいよね。そこになにかがあった、って。え、何を言いたいのかわからないって? 実はあーりんも、いつもの口から出まかせだからよくわからないでいるんだ。そして少しばかり、怯えて、うちひしがられて、つかれてもいる。

2017/02/12

スペタクル・カパーナ(かだい)

主人公の真歩は高校のメディア制作部に所属する高校二年生。来たる同人ゲームイベントに向けて、「合作を作ろう」と部員たちは一致団結の様相。しかし真歩は「わたしは、そういうのいいんで」と拒み、自分の作りたいゲームを単独で作り続けるのだった。

「ゲームなんてさー、あんたたちが作ることに一体何の意味があるわけ?」
「……正直に言って、わたし自身も、実はよくわからないでいる」

時を同じくして学内に巻き起こる、謎めく噂と事件。
他校に跋扈する、奇天烈な天才的制作者との対峙。
あえて語るまでもない、停滞と苦難と齟齬と葛藤。
それでも期限は、刻々と迫っていく。
真歩たちの情熱の向かう果てに、待ち受けるものとは。

ゲーム制作系青春群像劇、開幕。



↑を今書いたあーりんの感想:
「え、開幕するの?」

2017/02/09

pour(1


ここは独り言のブログだよ

と言っても、これは独り言などではなく、インターネットに公開される場所であって、もちろん、そんなことはわかっていて、そんなことはとっくに、分かっていて、

糸口、手がかり、痕跡、血痕、後悔、思い残り。このブログの更新は、そうしたものを手繰ろうとする行為のように思える。それはもしかしたら最期の一撃であるかもしれないほどに、まことに頼りない。しかしその頼りなさを客観視して見下せるほど、成熟も出来なかった。あるいは、したくなかった。

そうであることと、そう振る舞うことには、天地の差がある。

何かを描きたくて更新ページに来たのに、それを忘れた。多分大したもんじゃない。いま、入力ミスを呆れるスマホの奥で、暗い天井が、揺れている

2017/02/05

一人称単芻


あーりんは一人称ゲームで酔いまくる体質(本当そんだよね)なので、あまり長時間できないという事実を久しぶりに突きつけられたよ…。
『gone home』ていう海外のインディ系の探索ゲームで、いつかダウンロードしてたのを前情報無しでなんとなくはじめて、一時間半くらいでクリアしたよ。インディーズゲームはだいたいプレイ時間が小さいのが魅力だよね。長ければいいってものじゃないよってあーりんは思うんだ。
制限内での物語表現のバリエーションにゲーム制作魂を感じたよ。酔って二回はいたよ。
内容的に、はきもの(靴みたいに言う)も虹色になるね!と思って、かいたよ。

その一方で、果たして近年のこうした作品における表現のバックグラウンドは、本当に虹色といえるのかな…?などと、自罰的になりつつも感じちゃったのは秘密なんだ。

2017/02/04

【既読】

涙々たる結果とはまさにこのことだろう。実際に今、私は泣いている。

寝食を忘れ、日夜フリーゲームを作り続けた当然の果てとして、私の肉体は、ついに己がゲームと同化した。

私は、フリーゲームになってしまったのだ。



ぼうとうはできたので、つづきをだれかかいてください

2017/02/02

[しょうせつ]遠すぎて近い冬



「へえ、知らなかった、外国の人もファンサービスって言葉使うんだね、ほら見てよこの自撮り、こないだ教えたセレブの歌手の、なんかセレブの。ところでセレブってどういう意味なんだろ。この投稿と一緒にファンサービスって書いてる。サービスってこのつづりでいいんだよね。ねえいいのこんなに肌出して、海外の人ってどういう感覚なんだろってよく思う。思わない?」

「あまり思わない」

「投稿が一時間前なのにもうこんなに拡散してるし。午後九時で。いや時差あるのか。…うわあ、見たくないなあこの写真についたコメント。英語だからわかんないけど」

「で、何が言いたいの」

「いやあ、ねえ。あーあ、わたしもなあ! ちらっと肌を見せて投稿するだけでファンサービスになっちゃうような体に産まれて生きたかったなあ、みたいな感じ?」

「そういう生き方は損するよ」

「損得で考えるのよくないよー、わたしだってこういう写真とか撮ってみんなに見せてちやほやされたい。楽じゃん」

瞬間。数多くの、様々な文脈と声音の言葉がわたしの脳裏に浮かんでは、そのまま流れるように脳髄に沈んでいった。言葉たちは、微かながら命を持っていたように思う。だがわたしはそれらを見殺しにした。すべてが彼女には相応しくなかったのだ。

静けさの根拠は、なにもわたしが黙っていたからのみではあるまい。冬の夜は、あらゆる声を押し殺していた。わたしの聴覚が捉えていたのは、アウトレットセールで奪うように買ったが冷静に見るとあまり好みではない意匠の掛け時計と、灯油と電力をばりばりと喰らっては熱とH2Oと何かに変換するファンヒーターの駆動音だけだった。

窓の外では、暗夜を背景に、乾いた雪片たちが身勝手な舞踏を続けている。明日の積雪量は予報を決して裏切るまい。

彼女の疑問に応えることにした。

「セレブは」

「えっなに」

「セレブは、セレブリティの略。セレブレイテッドの略ではない。セレブリティはラテン語系の古い英語だけど、前世紀の90年代ごろからメディアで頻繁に使われだした。名声を有する人たちを主に示す。スターに近いけど、やや軽蔑的な呼称でもある。日本国内でのニュアンスとはかなり異なる」

へえ、と実に間の抜けた息を漏らして、彼女はわたしに丸い目を向けた。ソファの背もたれによりかかって、お得意のきょとんとした顔を見せていた。

「詳しいんだね」

「今、検索したから」

わたしは、ちら、とソファの彼女を横目に見た。まったく、なんて動きが読みやすいんだろう。彼女はやや不満げな様子で、わたしが手に取るスマホの側面を凝視していた。

室内気温の低下によるものか、ファンヒーターの駆動音がスケールを上げた。しかしセッションを続ける掛け時計の秒針は、相も変わらずのテンポを保持している。

そこで彼女が、ようやくことを切り出した。

「ごめんね、泊まりたいなんて言っちゃって。突然に」

「いいよ。空間的にも」

「でもさ、いきなりだったじゃん。全然言ってなかったし。だから」

「いいよ。空間的にも時間的にも」

「でもさ、わたし申し訳ないって思ってるよ、こんな寒い日に、身勝手な理由で上がり込んじゃって、ごめん、わたしのことながら、ひどいなって。本当、迷惑だわたし」

「いいよ。空間的にも時間的にも、わたしの部屋は空いているし、友人のあなたに食事を作れないほど、うちも財政的に逼迫してはいないから」

「でもさ」

「いいよ。それに」

窓の外に、ふいにわたしは視線を向ける。

乾いた雪片たちは、一段とその量と勢いを増して、暗い中空を舞台に踊り続けている。

静寂の押し込められた、真冬の夜だった。

「別に、迷惑でもないし」

わたしの語尾に重なるようにして、陽気に過ぎる効果音が広くもない部屋に響いた。

目を向けると、彼女はスマホを片手に取って、背面のカメラレンズを向けている。

自分自身の腹部に、接写するかたちで。

もう片方の手は自身のセーターとシャツをずり上げて、その肌を露出していた。

ふたたび、馬鹿馬鹿しいほどに虚しい撮影通知音が鳴った。

わたしの視線に応えて、

「ファンサービス」

と、彼女は実にのんきに答えた。

「……いつもの身内のアカウント?」

「もちろん、新しく作ったアカウントだよ。思ったの、これからはどんどんファンサービスしようと思って、沢山の人に見せられるじゃん。わたしだってセレブになりたいもん」

わたしは、繰り返した。

「そういう生き方は損するよ」

我ながら代わり映えのない語調にぷはっと笑って、彼女も繰り返した。

「損得で考えるのよくないよー! あなたっていっつもそう。頭の中、電卓みたい」

「じゃあ、言い直すけれど」

彼女から視線を逸して、わたしはベッドの隣のテーブルに無造作に放られていた漫画の背表紙に目を向けた。恐ろしいまでにデフォルメされた顔面のキャラクターが、部屋の天井に至れりつくせりの笑顔を向けていた。

「わたしは」

すでにファンヒーターは、その音階を落としていた。

だから、わたしが声をはっきりと上げるには、丁度よかった。

「そういう生き方をしてほしくないんだ」

<おわり>