2020/08/12

みことのルール


(画像:フリー写真素材ぱくたそ)


「センパイは、あの世とか幽霊とかは否定派なんスよね?」

「いいえ、むしろあってほしい立場です」

「ええー? でも、めっちゃアンチ・オカルトって感じじゃないスか」

「そういうつもりではないんです。私はただ、『天国』が本当にあるってことを証明したいんです。そのために、今日のようなお手伝いをしています」

「どうして」

「『天国』があるって判れば、安心して逝けるので」

「……」

「でも、よく検討してみると、いつも、みんな、間違いばっかりで……思い込みだったり、勘違いだったり、インチキだったり。いくら探しても、そうしたものが、"あ"ると、はっきりと証明できない。だから、困ってるんです」

「でも、それは……」

 ――証明なんて、できるわけない。

 だって、本当は、『天国』なんて、実在しないんだから。

 人間が死んだら、思考力もなにもない塵になって、終わりなんだから。

 センパイの考えは、違った。

「本当に『天国』に行けるんだって、私、思いたいんです。肉体が死んだら幽霊になれるって思いたいし、訓練をすれば妖精と話せるって思いたいし、妖怪もエイリアンも地底人も雪男もネッシーも実在するって、思いたいんです」

「でも、実際に事件を推理して、考えをめぐらせた結果、まだ思えないと」

「はい」

 センパイの顔に視線を投げかける。

 その瞳は、不思議と、澄んでいた。

 ため息を、こらえる。

 センパイがやっていることは、悪魔の証明そのものだ。あなたは、いもしない悪魔をいるかもしれないと信じて、無限の徒労に明け暮れる、愚か者だ……。

 でも、センパイ自身も、きっとそれを、理解しているのかもしれない。

 だから、あえてそんな野暮な指摘をする気にはなれなかった。

 

 ただ、一言、

「センパイ、バカですよ」

「そうかもしれないです」

「……死なないでくださいよ」

「がんばります」

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